2005年01月24日

コミックレンタルだけが対象じゃない──貸与権が招く最悪の事態

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 2004年6月3日に成立した「著作権法の一部を改正する法律」により、来年1月1日付で著作権法附則第4条の2が廃止され、これまで著作権法第26条の3に規定されている「貸与権」の適用対象外であった書籍・雑誌(但し、楽譜は旧法でも「除外の除外」扱いで貸与権が適用されている)に権利が付与されることになりました。
 この点に関して一般報道では非常に不正確な表現が多かったのですが、貸与権は単なる「貸本業から報酬を請求することが出来る」だけの権利ではありません。貸与そのものを著者の死後50年間にわたって禁止することが可能な、極めて強力な権利です。
 昨今、出版業界は「長期低迷」傾向が続いており、2004年はようやく7年ぶりの回復基調に転じると伝えられていますが業界ではこうした長期低迷の「大元凶」に1990年代後半から台頭して来た大型古書店チェーンや漫画喫茶の存在を挙げて来ました。しかし、こうした見方に対しては最近になって夏目房之助氏(共著『マンガの居場所』NTT出版・他)や竹熊健太郎氏(著書『マンガ原稿料はなぜ安いのか?』イースト・プレス)により疑問を呈する意見も出ています。また、何より問題であると考えられるのは昨今、顕在化して来た業界の扇動的とも言える権利主張が2001年3月に公正取引委員会が廃止を断念するまでの「再販制度絶対護持」運動の延長線上に、すなわち「再販制度」と言う手段を維持する為の目的としての「著作権強化」と言う側面を多分に有していることです。そのことは、公正取引委員会が実施している著作物再販協議会における業界関係者の発言を見ても明らかと言わざるを得ません。再販制度が流通網の整備やインターネットの普及による書誌情報検索の簡便化により「店頭に並べることによるカタログ機能」が薄れているなどの社会情勢変化を前にしてもなお、存在意義が有るかどうかの冷静かつ客観的な検証を経ずに半ば「絶対正義」のように位置付け、再販制度の存在意義に反するもの──例えば、同じ再販制度に浴する音楽業界では容認されているポイントカードなど──を全て「悪」に見立てて攻撃しているような状況なのです。

 そんな中で、2003年夏に出版業界の関係諸団体が集まって「貸与権連絡協議会」が結成されました。元々は、漫画喫茶に対して貸与権を行使することを目的にしていたのが「漫画喫茶はコミックスを貸し出している訳では無いので、貸与権の対象にはならない」と言う文化庁からの指摘を受けて(その後、2004年5月には漫画喫茶の業界団体である日本複合カフェ協会と自主合意が締結されています)、主にレンタルビデオ店併設型のコミックレンタル店(全国に300店前後と推測される)が攻撃対象とされました。しかし、コミックスは元々の単価が低いので利幅が薄く、レンタルビデオ店でも「苦肉の策」的に始めた所がほとんどのようで業界が主張するような「爆発的に拡大する」状況が現実に発生するかどうかについて疑問視する意見は当初から存在しました。が、権利者代表が20名中14名を占めていた文化審議会著作権分科会法制問題小委員会は(もう一つの議題であった音楽レコードの還流防止措置が激しく紛糾していたこともあり)大した検討を経ることも無くあっさりこれを了承。しかし、ここで重大な問題が見落とされていたのでした。
 一つは、貸与権は単なる報酬請求権でなく貸与そのものの禁止権を含む強大な権利であること。
 もう一つは、附則第4条の2を廃止することによって拡大される貸与権の対象はコミックスや小説に限らないこと。
 それによって、図書館法第28条に基づき利用者から入館料や貸出料を徴収している私立図書館の業務に支障をきたす恐れが出て来たのです。何故なら、著作権法第38条は
公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。
(中略)
4 公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。

と定められており、図書館法第28条に基づき利用者から入館料や貸出料を徴収している私立図書館は「営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合」に該当しないからです。
 この疑問点に対して、2004年5月25日の政府答弁書
 図書館法(昭和二十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する私立図書館又は図書館法第二十九条第一項に規定する図書館と同種の施設が、これらの施設の利用者から、図書館法第二十八条に規定する入館料その他図書館資料の利用に対する対価を徴収している場合において、当該対価が、書籍又は雑誌の貸与に対する対価という性格を有するものではなく、これらの施設の一般的な運営費や維持費に充てるための利用料であると認められる場合には、著作権法(昭和四十五年法律第四十八号。以下「法」という。)第三十八条第四項に規定する「料金」に該当しないものと解される。

と答弁していますが、最早この政府見解すらも担保されるかどうか疑わしい状況になって来ました。何故なら、2004年9月28日の最高裁判所・第三小法廷による上告棄却決定により確定した2003年2月7日の名古屋地裁判決では次のような判断が示されているからです。
被告らは,本件各施設における音楽著作物の再生は,営利性を欠くと主張するところ,法は,公表された著作物につき,(1)営利を目的とせず,(2)聴衆等から料金を受けない場合には,著作権に服することなく公に演奏等を行うことができる旨規定する(法38条1項)。これは,公の演奏等が非営利かつ無料で行われるのであれば,通常大規模なものではなく,また頻繁に行われることもないから,著作権者に大きな不利益を与えないと考えられたためである。このような立法趣旨にかんがみれば,著作権者の許諾なくして著作物を利用することが許されるのは,当該利用行為が直接的にも間接的にも営利に結びつくものではなく,かつ聴衆等から名目のいかんを問わず,当該著作物の提供の対価を受けないことを要すると解すべきである。
 しかるところ,被告らが,本件各施設におけるダンス教授所において,受講生の資格を得るための入会金とダンス教授に対する受講料に相当するチケット代を徴収していることは前記のとおりであり,これらはダンス教授所の存続等の資金として使用されていると考えられるところ,ダンス教授に当たって音楽著作物の演奏は不可欠であるから,上記入会金及び受講料は,ダンス教授と不可分の関係にある音楽著作物の演奏に対する対価としての性質をも有するというべきである。

 つまり「外形的な金銭の授受が存在すればそれは営利目的であるかどうかに関係無く著作権法第38条は適用されない」と言うのが最高裁の判断なのであり、例えこの判決が38条1項についての判断であると言っても4項の「料金」が1項の「料金」とは異なる、と言う政府による解釈の根拠が明らかにされていない以上、私立図書館はおろか学校教育法第6条に基づき生徒から授業料を徴収している私立学校法人ないし構造改革特区制度に基づく株式会社立学校の付属図書館は生徒に図書を貸し出す行為が、どれだけ教育の為に不可欠な行為であっても違法と判断される危険性が非常に高くなってしまっているのです。

 一体、誰のせいでこんなことになってしまったのでしょう?

 上記に挙げた事態を憂慮して『(10)書籍・雑誌の貸与権の報酬請求権化』・『(80)書籍・雑誌の貸与権が制限される要件の一つである「無料」の要件の明確化』『(81) 書籍・雑誌の「営利・無料」及び「非営利・有料」による貸与を権利制限の対象とする』などの要望が各団体から出されています。

 最後に、昨年12月実施のパブリックコメントにおいて全国貸本組合連合会(内記稔夫理事長)が提出した意見書の一部を掲載します。各自において真の意味での「文化の発展」を考えるきっかけになれば幸いです。
一、 一九九〇年代半ば以降コミックの売行きが下降した原因は新古書店、マンガ喫茶、大型レンタル店の増加によるものだという見解がマスコミに横行していますが、果たしてそうでしょうか。コミックに限らず出版大崩壊といわれる現象はもっと冷静に分析する必要があるのではないでしょうか。
 貸本業は近世の商業出版の成立とほぼ時を同じくして誕生し、新刊販売、古書売買と共に読者の選択に任されてきたものであり、その消長はその時々の出版事情により起伏を重ねてきたものであります。小規模の自営貸本業者の存在は出版文化の底辺を支えてきたといっても過言ではありません。その営業と暮らしが立ち行かなくなることのないよう慎重にご検討くださるようお願い申し上げます。

参考‥小倉秀夫「まっとうな私立大学がみんな犯罪者になる日」(『ゲームラボ』2004年4月号)

【関連するエントリ】「権利の消尽は悪」ですか?──中古ゲームソフト裁判・延長戦
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